愛と美は人類の至宝     by 堤大介

イラストレーターには魂が(1)

[1章 地球]  [2章 太陽]  [3章 美]  [4章 ウフィツィ]  [5章 論理]
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1章 地球

 地球儀を見るのが好きです。地図を見るのはもっと。たとえば,インド亜大陸は聖牛の乳房。 その豊穣さは,絞れば乳を滴らせそうなリアリティーに富むように見えます。 それこそが地図の魅力なのではないでしょうか。 イタリアは長靴ですね。イタリアの痛みは、我が立脚の痛み。
カムチャツカ半島とマレー半島が双子の兄弟のように似ていることは地球儀が教えてくれます。 ボルネオ島とセレベス島は、オーストラリアの北の海原で, 連立してニューギニア島を攻め滅ぼそうとしているような躍動感です。
地球儀はまた,日本列島が極めて特別な存在であることを啓示し続けてきました。 北海道は,二つの突出した眼で遠く北太平洋を見つめ続け, 本州は背に佐渡島を負って胸を張っています。 能登半島が神の背もたれなら,島根半島は神の妻,卑弥呼のものだったのではないでしょうか。
日本列島の東海岸と西海岸をドットラインで結んでイラスト化してみました。 西海岸は東京,大阪の奥座敷。 アメリカで西海岸のシリコンバレーとハリウッドが東海岸のワシントン, ニューヨークを支える関係を思わせます。
優しい北海道,エネルギッシュな九州,独歩精神の四国もまた。
日の丸の国,日本には,朝に日の出を,夕に日没を, 水平線に見れる場所が少なくとも二カ所あるという。佐渡北端の二つ亀,そして北海道・宗谷岬。

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2章 太陽

 太陽は私の心の母,魂の古里です。西の日本海に傾くのを待って凝視すると, 間もなく金色に輝き始め,私の心を光で満たします。
 イラストレーターにとって線は自己表現の要めなので, 日常の世界に存在するものの姿に極めて敏感です。 見るもの全てを心に焼き付けます。 たとえば一本の飛行機雲の軌跡。 ズンズン上空へ昇り続ける力強さは希望や力を印象づけずにはいません。 いずれこの希望を美のパーツに応用せずにはいられないと思います。
 空は偉大なキャンパス。大いなる太陽の息子,地球。地球の忠実な息子,月。 そして星のきらめき。 それは古来から宇宙のネオンサインでした。 宇宙の神々も夜ごとネオンの海で遊びたもうのでしょう。
 放射線状の模様は華やかさと広がりを演出するので, 画家もしばしば活用します。 山下清は,美しい花火を描くことで花火師にもあまねく知られています。
 花火は祈りの表象。時として花火は心の中で花を咲かせ,神と人を祝福します。

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3章 美


 美は神の光であるとはいいながら,それでは芸術論が先へ進みません。 美の源流は花にあるらしい,と人は言い交わします。 美しい女性は雅やかな桃色の花を持っていて, 気まぐれに咲かせては世上の男の目を奪い,虜にします。
 イラストレーターも,このような花を絵に咲かせようとして一生を捧げます。
ギリシャ神話では,薔薇の花は愛する人の死に悲しんだアフロディーテの涙。 空から天が落ちてきた現代でも,アフロディーテは時折,パラダイスの花園に遊び, なかなか俗世界には戻ってくれません。
 美と愛の女神アフロディーテは,ローマではヴェヌスと呼ばれ, ギリシャやイスラエルに建立されたような教会や神殿こそ見られないものの, イタリア・トスカーナ地方のフィレンツェ(薔薇が咲き乱れ愛称は花の都)では, ウフィツィ美術館の一室に「ヴィーナスの誕生」と「プリマベーラ(春)」の二点の絵画が 防弾ガラスに守られています。
 キリストと聖母マリアの名画も同じ展示室の一角を占め,ルネッサンスから約五百年を経た今, 和気あいあいの聖家族を構成しているのが具象化されています。

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4章 ウフィツィ

 ウフィツィ美術館は「ヴィーナスの誕生」を鑑賞する世界各国の美術愛好家や宗教家でいつも混雑しており, ヴィーナスはそうした人々の崇拝対象となっています。  人と対等の高さで愛されながら崇拝されるという神性を私は他に知りません。
 「ヴィーナスの誕生」では,ヴィーナスは季節の女神ホーラに衣装を捧げられ, 「プリマベーラ」ではホーラに花を地上にたむけさせ, 息子のキューピッドに愛の矢を射るに任せて優雅な地上君臨の振る舞いをかいま見せます。
 ヴィーナスは,金星という惑星としても同様に愛されます。
 惑星第三の位置を占める地球。 月旅行の宇宙飛行士がその全身を見て衝撃の映像をテレビで伝えました。 生命の宿る球体があまりにも美しかったので,以来, 人類は「岩石の塊の地球」の世界観を捨てることにしました。
 フィレンツェを中心に地球をデザインしてみました。 地理的環境を見ますと,改めて西洋美術の源流を見る想いがします。 地図は人間の視野を拡大し,人々の思想を大きく育んできました。
 イラストレーターは自由です。地球を丸ごと美化しようとしているところです。

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5章 論理

 論理学を絵や人生に応用しなければならないのがイラストレーターの宿命で, 他に幾何学の素養も必要なのがつらいのです。
 最近はコンピューターのハードウエアとソフトウエアの知識まで, 当然のごとく印刷業界から要求されます。 これが非常に役に立つので, できれば手書きのイラストレーターもコンピューターとの二刀流が望ましいと思います。
 街を歩いていると,イラストレーターの需要は無限と思われるほどイラストが溢れている時代ですね。 名刺,封筒,制服,靴,ネクタイ,ジャンボジェットの機体,自動車,書籍,雑誌などなど。 これだけ多くのイラストレーターは,いったいどこに隠れているんだろう。 ついそう思ってしまいます。
 星を題材にしたマークやシンボル・ロゴタイプは,ありそうで案外少ないのに驚きます。 これから流行するのかもしれません。EXPO'92の地球,農協サイドの鳥取米の太陽, 某テニスクラブや某ホテルの星マーク,レディスウエアの土星, 石鹸メーカーの月などが国内の例です。

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 © Daisuke Tsutsumi and Picnic Plan Publishing Inc., 1994-2009           © Picnic Plan Publishing Inc., 1988-2009

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