コンピューター言語は人工言語である。人間にとって、かつて神が人類に言葉と愛を与えたように、全く新しい言語体系の創造であったから、その基礎もまた人間が逐一決めなければならなかった。話し言葉をそのまま機械に理解させようというのは無謀である。
そこで、自然言語を1文字ずつ数字で表現できるよう、符号(コード)によって体系化し、コンピューターに登録することが企画された。
コンピューターごとに文字のコードが異なるのでは、のちのち混乱する。そこで別のコンピューターともデータを交換しやすいよう定めたのがコンピューター用の標準コードだった。人類の、ここ三〇〇〇年の歴史を、米国の技術者たちは3年で機械に再現してのけたのだった。
コンピューターのコード体系として最も普及しているのが、アスキー(ASCII)コードである。
ASCIIは、American Standard Code for Information Interchange(情報交換用米国標準コード)の略だ。7ビットの情報本体と、誤りを発見する1ビットのパリティチェック情報から成立し、英数字・記号に制御系コードを加えて128種類を表現する。
これほどパソコンの文字コードが広範に普及する一方、メインフレーム(汎用コンピューター)を製造するメーカー(メインフレーマー)は、パソコンとは別の路線を歩んだ。
IBMは自社路線、そして非IBMのメインフレーマーたちは寄らば大樹の陰、IBM路線である。
米国の企業でありながら世界の企業でもあるという自負からか、IBMは自社の汎用コンピューターに独自のコード体系によるEBCDIC(エビシディック)を用いた。
EBCDICは Extended Binary Coded Decimal Interchange Code の略である。拡張2進化10進コードと訳されている。IBMが開発した。英数字と記号を8ビットのコードとして表現する。
2進化10進コードとは、10進数の数字(0〜9)を2進数で表現したものである。たとえば10進数の9は2進数で表わせば1001になる。10進数の各桁は2進数では4ビット以内で表現できる。この4ビットに4ビットを追加して8ビットコードとした。
非IBMメーカーの汎用コンピューターも、大半はEBCDICを使っている。ASCIIコードを採用したMS―DOSとは、汎用コンピューター側のコンバーターという小さなソフトウエアでデータを変換している。
世界の標準
IBMのEBCDICも世界的標準なら、MS―DOSも世界的標準である。MS―DOSマシンはなりこそ小さいが、台数は1千万台を超す。MS―DOS側でなく、IBMコンピューター側がコンバーターを用意せざるを得ないところが面白い。大衆が非大衆を従えた、などとかちどきをあげても、別にIBM社やアップル社に迷惑は掛かるまい。
また、高価なだけに驚異的な画像処理能力のあるマッキントッシュも、マッキントッシュ側でコンバーターを備えている。MS―DOS側で用意している標準コンバーターは、MS―DOS↑↓BASICだけ、というのも商魂のたくましさを感じる。
ASCIIコードはアメリカのコード基準だから、日本語特有の漢字、ひらがな、カタカナは扱わない。そこで日本は、JISコードを制定してアスキーコードに漢字などを加えた。最大の特徴は、英語にはない全角文字(英数字の半角文字の横2倍の大きさ)を体系に組み入れ、漢字1字ごとに2バイトのコードを割り当てた点である。これは大変な苦労を伴った。
一般文書中心のJIS第1水準だけで2965字、固有名詞や旧漢字を補足するJIS第2水準が3388字と、なんと6000文字以上ものコードで構成する。記号を除けば36文字強の英語文化圏と比べると、いかにハンディが大きいか。
かてて加えて、JISコードには、新JIS(一九八三年以降のデータ通信のための標準的な文字コード)、旧JIS(一九七八年から一九八三年に用いられ、今も一部で使用)、それにシフトJIS(パソコン通信で用いている漢字コードのほとんどがシフトJIS)、NEC―JIS(日本電気のパソコン内部で使用するが、日本電気製MS―DOSではシフトJISに変換される)が混在している。
シフトJISコードは、JISコードとは似て非なるものである。MS―DOSを国産パソコンに移植する時に考案された漢字コードで、MS漢字コードと呼ばれることもある。
雑然としたコード体系のみならず、全角文字がこれほど多いため、日本語処理は重い処理とならざるを得ない。そこで、日本語ワープロ専用機でもそうだが、MS―DOSマシンを初めとする国産パソコンは、日本語処理を高速に行なうため漢字ROMを本体に装備する。漢字データをディスクで管理すると、それだけで堪え難いほど待ち時間が多くなるからである。
マッキントッシュは米国製だからクーリエ、ヘルベチカ、タイムスなど各種の英語フォントをディスクに備えている。他に、日本向けには明朝、ゴシックなどの書体と併せ9ポ、12ポ、24ポなどといった膨大なフォントをディスクで管理しなくてはならない。
これはこれで画面でフォントの形と大きさを確かめながらのWYSIWYG(What You See Is What You Get=画面を見たまま印刷できる)が実現するから、大きな長所であろうが、CPUとディスクの性能を問われることにもなりかねない。
英数字と記号だけの英語文化圏版MS―DOSは、MS―DOS1・1として日本へも輸入されたが、この頃は日本語表現ができなかった。まだ限られた国際ビジネスマンや研究者、プログラマーだけのOSだった。
その後、半角のカナを表現でき、かつハードディスク対応のVer1・25が現われたが、これも一般のビジネスマンには手が届かない。
日本人待望の日本語対応MS―DOS Ver・2、特にMS―DOS2・11がデビューすると、時代は16ビットパソコンとの合流により、MS―DOSの全盛時代へ入る。一九八五年前後のことだった。
プログラマーの間では、ソフト開発にWord Mastarというエディターが、貿易ビジネスには英文ワープロソフトWordStarが、ビジネス用表計算ソフトはMultiplan、データベースはdBASEΠ.といったパソコンの実戦配備が進んでいた。
ビジネス戦略は、大小のコンピューターを基礎に展開したのである。この事実を認めない管理職、コンピューターに親しめない人々、そういったアレルギーがあまりにも大きかったので、コンピューターをコンピューターと呼ばずに「マシン(機械)」と呼ぶことを申し合せる企業さえあった。
近年のMS―DOSは、家計簿や日記にしかパソコンを使わないであろうと思われるユーザーにも高級機のターゲットを広げようといわんばかりに、MS―DOSは末端部分の高機能化を進め続ける。
ハードディスクや光磁気ディスクなどの周辺装置を接続できるインターフェース規格であるSCSI、あるいはメインメモリーの制約を解放するEMS拡張メモリー、などに対応したVer・3へと機能アップが進んでいる(アメリカではVersion・4)。Ver・5の登場も時間の問題である。
無料、またはせいぜい2万円足らずのこの基本ソフトが前提としている記憶装置は、いずれも、つい近年まで大型コンピューターだけが独占する排他的装置であった。
dpiは Dot Per Inch の略で、1インチ当たりのドット数のこと。プリンターだけでなくイメージスキャナーやディスプレイの解像度を表わす単位でもある。DPIと大文字で表記することもある。
熱転写/ドットインパクト/インクジェットタイプのプリンターだと48ドットでも200dpi弱だが、レーザービームのページプリンターは240dpi〜300dpiの品位だから美しい。
プロ用のページプリンターには、400dpi〜600dpiという高解像度のものも市販されている。
商業出版物は1000dpi以上の品位が必要だとされる。写植文字の解像度は2000dpi〜3000dpi前後で、本書は約2500dpiで印刷されている。
印字スピード
プリントアウトの速度は、熱転写/ドットインパクト/インクジェットの各プリンターでは1分当たりの印字文字数「字/秒」で示すのが普通である。CPS(Character Per Second)と表記することもある。
同じ1文字でも、全角の漢字と半角の英数カナとでは、2倍程度印字スピードが変化するので、全角漢字で統一して比較すると混乱がない。
ページプリンターの印字スピードは、A4またはB5の印刷用紙を1分間に何枚印刷できるか「枚/分」で示す。
プリンターを使用する際、作動音(騒音)を避けることはできない。あまり大きな騒音だと、会話もできないほど周囲に迷惑をかけることになる。使っている本人はさらにストレスがたまる。
作動音の単位は、伝統的にdb(Deci Bell の略=デシベルともいう)を使う。これはANSI(米国規格協会の略称、American National Standards Institute=アンシまたはアンジ)規格で定めている作動音のレベルである。